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日 付 2001/07/15  朝・夕刊 朝刊  政治・行政  3  1版 
見出し 日曜評論/職場実習と本土就職/重田辰弥(日本アドバンストシステム社長) 
本 文
日曜評論/職場実習と本土就職/重田辰弥(日本アドバンストシステム社長)


 今年の就職戦線もすでに終盤戦に入った。わが社も採用枠十五人をほぼ内定した。この内定者に県出身者はいない。毎年のことながら本土に比べ、就職活動の始動が遅い県内学卒の使用枠は、別に設定している。昨年も琉大の院卒、沖国大、名桜大から合計四人を採用した。
 わが社は今年で創業二十三年になるが、この間、県出身学生を合計二百四人採用してきた。先年、県から就職セミナーの講師を依頼されたときの当社における県出身の動向を分析したので、その結果を報告したい。まず定着性だが、創業以来の県出身二百四人の採用に対して、現在の在籍は四十人。これに対して他府県出身は、三百人採用して百六十人が在籍。他府県出身の定着五割に対して県出身は二割。
 県出身者の退職を分析すると、いくつかの特徴が見られる。まず、一年以内の退社が他府県者の三倍以上。高卒、専門短大、四大で比較した場合、当社では意外に高卒の定着が、琉大卒と並んで高い。それも浦添工業高校に集中しており、その在籍者の平均勤続年数は八年。十年以上の勤続者が四人いる。県出身在社全四十人の平均勤続も七年。これは他の在京企業に比べて高い数字だという。
 一年以内の退職が多い理由には、われわれ採用側の見極めにも問題があるが、県出身者が上京して、最初に最もこたえるのは通勤地獄である。女性には特にきつい。そういう意味で、県も高校生の本土職場実習を行っているのだろう。当社も十年以上前から引き受けており、今年も先月五人の実習を終えたばかりだ。
 近年の特徴は、すでに自分のホームページを発信しているなど、総体に女生徒が優秀だ。今年はHTMLというWEB専門言語を駆使する女生徒がいた。若い人へのITネット文化の浸透の速さは、われわれの想像以上に速い。その面では引率の先生は足元にも及ばない。
 もっとも、首都圏で実習生を引き受ける企業のほとんどは、レストランやスーパー、ないしは組み立て等の製造現場が多く、デスクワークを主とする情報処理業等は当社しかなく、勢い全県で最優秀なITに強い高校生が志望して来ている可能性があるのだろう。
 当社では修了生の中から毎年応募者があり、隔年に一人の割合で採用実績があるので、この制度のメリットを受けている。
 県は本土就職の促進策として、毎年全県から二百余人の高校生と二十人前後の教師を四泊五日のスケジュールで、本土の企業に派遣している。企業に寮が無い時はホテル宿泊で、その上企業に些少(さしょう)とはいえ謝金まで出している。その総予算は決して軽くはないだろう。
 終了後、実習生は校内発表や感想文で、その体験を伝えているが、県はこの内何人が本土に就職し何年ほど定着しているかの追跡調査等、この施策の費用対効果の評価を行っているのだろうか。
 雇用環境の変化にもかかわらず前例踏襲で継続しているとは思いたくないが、少なくともこれまでに実習を引き受けたわれわれ企業サイドに、実習実施後の感想や印象を聞かれた記憶はない。


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