琉球新報 記事詳細

日 付 2001/07/29  朝・夕刊 朝刊  特集  8  1版 
見出し 日曜評論/甘い日本の児童虐待対応/斎藤陽子(USセラミック・サプライ・インク社副社長) 
本 文
日曜評論/甘い日本の児童虐待対応/斎藤陽子(USセラミック・サプライ・インク社副社長)


 名古屋でまた小学二年生の、痛ましい児童虐待死があった。相次ぐ日本からの児童虐待死の報道に、アメリカに比べ日本では、虐待の通報に対し、保健所や児童相談所などの関係機関相互の、連携の不十分さとその対処の甘さに、怒りがこみ上げてきてならない。
 日米において最も顕著な違いは、子育てに関する法規制であろう。
 米国ではすでに、一九六三年から四年間をかけて、徹底通告義務の法律を確立し、連邦政府は「児童虐待通告法」を制定し、基本的にはアメリカ全州で、特定職種者(医師や教師など)の通報義務を位置づけている。
 アメリカ国内の中でも、特にカリフォルニア州が定める「幼児虐待・児童遺棄」の法律は厳しい。虐待が疑われる場合は、医師または教師の、警察への通報義務はもとより、医師は虐待確認のため、保護者の同意を得なくとも、レントゲン診断を指示することができる。また医師、教師の警察への通告は、電話で速やかに行い、警察へ三十六時間以内に書類通告を行う義務がある。
 通告の秘密は保持される。なお虐待の可能性を疑いながら、通告を怠った医師、教師は、一千ドルの罰金あるいは六カ月の懲役となる。また市民が虐待を目撃したり、虐待が疑わしいと思える場合は、市民も警察へ通報することができる。
 米国に移り住んだ日本人が、これらの厳しいカリフォルニアの法規制を知らずに、経験する問題点として、例えば、わがままな子供を躾(しつけ)のつもりで家の外に放り出し、子供が泣き叫んでいるのを、隣の住人が幼児虐待として通報し、警察が飛んで来た例。日本では当たり前の習慣が性的虐待として扱われるケースでは、女の子が教師に、父親と一緒におふろに入ったと言ったのが、性的虐待と通報され、警察に追及された例。
 また昔の日本では、赤ちゃんの裸を写真屋に写してもらったが、その風習が残っていた父親が、赤ん坊の裸の写真を撮り、現像店の通報で、警察に性的虐待で連行され、深刻な事態に陥ることも時には発生する。また日本では当たり前の「鍵っ子」も、十二歳未満の子供を「鍵っ子」状態にさせ、通報で児童遺棄罪になった日本人もいる。
 笑えない話では、友人の子供が、剣道練習中にできた木刀の痕の青痣(あざ)を、教師から虐待と疑われ、自宅に警察が突然訪れ、スポーツでできた青痣だと説明し、嫌疑を晴らすのに苦労したとのことだ。十七年前、私が公立小学校のクラスを受け持った時にも、児童から虐待を耳にした時の教師の通報義務や、授業中に児童の頭などをなでたりの行為は誤解を招くので、気をつけるようにとの心得を校長から受けたものだ。
 幼児虐待には、医師、教師、隣人や市民と、どこにでも人々の厳しい眼があり、日本人は習慣の違いから、思わぬ苦い経験をすることもある。
 昨年、日本全国で虐待相談を受けたのが、過去最多の一万八千八百件に上り、過去十年間で約十七倍に急増したとの新聞報道を見る。日本からの虐待死の報道によると、関係諸機関が虐待を察知していながら、相互連携のあやふやさが原因で、取り返しのつかない状況になっていることが、よくあるように思う。
 アメリカの児童虐待にかかわる諸機関が、司法とともに組織だった連携行動を取り、迅速に整然と組織立った動き方をする、児童虐待へのシステムを、日本はアメリカからも学び、厳しすぎるほどの法規制を定めなければ、幼い命を救う手だてはないように思う。



備 考  
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