琉球新報 記事詳細

日 付 2001/08/12  朝・夕刊 朝刊  政治・行政  3  1版 
見出し 日曜評論/県出身社員の意外な動向/重田辰弥(日本アドバンストシステム社長・WUB東京会長) 
本 文
日曜評論/県出身社員の意外な動向/重田辰弥(日本アドバンストシステム社長・WUB東京会長)


 県外勤務を前提に、毎年県出身の新卒採用を継続していると、いやでもその就業感や定着性の特徴が見えてくる。前回、創業以来二十年にわたり県出身を二百余人採用したことを報告した。うち女性は五十人で現在も在席しているのは三人。ここまでは一般に言われる男女の定着比率の差だ。ところが別の観点から県出身男女の意外な特徴が見えた。
 わが社ではこれまで一年一組の割合で約二十組の社内結婚が成立している。うち半分の十組の新婦が県出身だった。県出身新郎はどうかと言えば、本土出身の女性と結婚した例は二十年のうちわずか一人。男女百五十対五十という母集団存在を考えると、県出身男子の本土女性との成婚率は異常に低い。しかも、女性には社外の本土男性と結婚し、退社した例がこれ以外に三例もある。もちろん、わが社は県出身女性ばかりでなく、本土の女性もその倍以上は採用している。退社した県出身男性のほとんどが、沖縄にUターンしたにもかかわらず、女性は結婚という形でしっかり本土に定着したことになる。しかもよく見ると、社内結婚した女性の連れ合いの大半は部課長の管理職か将来を嘱望される中堅の有望株である。
 この県出身男女動向の理由は何だろう。NHKドラマの「ちゅらさん」が描くような沖縄女性の魅力だろうか。それだけではないようだ。わが社の例だけで一般化するのは危険だが、これは男子の職場定着にも共通する理由があるように思う。退職して沖縄へ帰る理由は、もちろん本人の限界や挫折が多いが、親の老齢や病気、借金、中には両親離別等の親がらみの「帰るコール」が結構ある。沖縄の男の子は過重な親の期待を背負わされ、それに健気(けなげ)にこたえようとしているように見える。この背景にはトートーメーを引き合いに出すまでもなく沖縄特有の家族主義や資産形成の弱さという社会的要因もあるかもしれない。
 「会社がそれほど立派か」いうことはしばらく置く。「会社を辞めたい」と電話で訴える鹿児島県出身の息子に「そんなことで音を上げるの!男らしくもない」と叱咤(しった)した母親の例を見たことがある。まるで幕末以来の薩摩郷士気質を引き継いだ「軍国の母」のような寡婦の光景だが、沖縄出身ではあまり見たことが無い。
 採用連絡等で応募者のご家庭に電話したときの親御さんの対応で「ああ、この方は組織体験があるな」と感ずる場合がある。わが社の事例でも、組織で長く働いた経験をもつ母親の娘さんは、長く勤続する傾向がある。冒頭に書いた社内結婚で勤続十年以上になる県出身二人の女性は、いずれもその母親がしっかりした組織で、定年まで勤め上げている。子どもの定着性の長短は、その親御さんの組織における成功体験に大きく影響されるといえる。
 今、一つの組織に長く勤め上げることが称賛されないばかりか、時に無能の印しにされかねない時代に見える。だがこのことをもって、定着性や継続性の無さが長所とされる訳でない。
 スカウト転職がもてはやされる欧米でも、エクセレントカンパニーのエグゼクティブは、一社勤続の比率が圧倒的に高いと聞く。親が継続と成功のDNAを形成すれば、それはいながらにして、後輩と子孫に継承され、やがて県民性や気質の形成となるだろう。


備 考  
ニュース源 その他  記事種   写真枚数 0