琉球新報 記事詳細

日 付 2001/09/09  朝・夕刊 朝刊  政治・行政  3  1版 
見出し 日曜評論/起業家と経営者/重田辰弥/(日本アドバンストシステム社長・WUB東京会長) 
本 文
日曜評論/起業家と経営者/重田辰弥/(日本アドバンストシステム社長・WUB東京会長)


 今年七月、ヤフーに次ぐ株高価で公開した日本マクドナルドの藤田社長が「起業は、結婚して子供を持つなど、それなりの人生経験をした後がいい。若い時は自信過剰で周りが無能に見えるが、世の中それほど甘くない」という意味のことを話していた。
 東大卒のオールド・ベンチャーの弁だけにそれなりの説得性をもち、わが意を得たようで大いに同感した。その後、別の場所で何回かこの言を引用するのを聞いているうちに、私を含め同感する年配者の心中には若くして創業、大金を手にした成功者に対するひそかな嫉妬(しっと)心があるのに気付いた。創業二十四年、いまだ売り上げ十六億円弱「日暮れてなお道遠い」わが社を思うと忸怩(じくじ)たる思いがある。
 それでも起業した会社を存続、発展させるのは容易ではない。私が創業してこのかた、本県でも将来を嘱望されつつ登場した若い起業家は十指に近い。そのデビューをマスコミは華々しく報道し、役所は税金で支援した。その何割が今残っているか。
 金融機関は融資焦げ付きの苦い経験から審査能力を高めたろうが、担当者の異動が早い役所やマスコミではこれらの企業の蹉跌(さてつ)から得た学習効果は継承されているのだろうか。
 正確に検証した訳ではないが、県内紙の経済記事には企業の決算発表と設立会見・パーティーの報道が占める割合が多いように感ずる。いま少しその企業の製品サービスの市場性や財務内容、経営者の資質等に踏み込み、前途に横たわる問題点や克服すべき課題についてのコメントがあってもいい。それによって読者は冷静な視点を、創業に心躍りがちな経営者は指針を得るだろう。
 本県では他に比して公的支援が豊かなため、多くの創業志望者が集まる可能性がある。それだけに税金を投入する役所や広報に預かる報道機関は発表されるビジネスモデルへの冷静な審査・評価能力が一層要求される。
 起業と経営は別の能力だ。起業家は将来ビジョン豊かに描くパフォーマンスとは言わないまでもある種の「表現者」で、イベント性がありニュースになりやすい。対して経営者は創業という宴の後に営々とした日常業務を繰り返す「組織者」で報道的魅力が薄い。経営者は会社をアーリー・ステージ(初期段階)から成長段階に移すには「表現者」から「組織者」に自らシフトしなければならない。あるいは相補完するパートナーを早めに見つけたい。
 最近、本県に進出した創業浅いIT企業がオフィス、人材、回線経費等に広く、手厚い公的支援を受けつつ、20%の経常利益を達成し公開を果たした。設立以来今日までいまだ7%以上の利益を出したことのない当社にとってため息の出る壮挙である。これは経営力の差というものだろう。
 一夕、那覇市内のさる酒席で「これ、ハンディー無しの自由競争を前提とする株式市場のルールに反するのではないか」と鬱憤(うっぷん)と気炎を上げたら、同席の酒友から「似たような話は沖縄に限らず、本土のオールド規制産業でもゴマンとあるでしょう。重田さん、どうも負け犬の遠吠(とおぼ)えに聞こえる」と言われた。打ちひしがれた帰京後、山の神にそのことをぼやいたら一瞥(いちべつ)、「評論などする暇があったら本業に精出したら」と言われた。この日はダブルパンチを食らったようでさらに疲れた。

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