日 付
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2001/09/23 |
朝・夕刊
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朝刊 |
面
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政治・行政 |
頁
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3 |
版
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1版 |
見出し
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日曜評論/忠誠心と徴兵制/斎藤陽子(USセラミック・サプライ・インク社副社長) |
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本 文
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日曜評論/忠誠心と徴兵制/斎藤陽子(USセラミック・サプライ・インク社副社長)
世界の人々に大きな衝撃を与えた、ニューヨークとワシントンの、悪夢のような史上最大の、同時多発テロから十日余りが過ぎた。
爆破事件以来、米国市民にとって、かつてないほど精神的に不安定な、長い日々でもあった。ウォール街も活動を開始し、平常な生活に戻り、米国市民もやっと、落ち込んだ気持ちを奮い立たせている。
爆破テロのあと、だれが言い出したのでもなく、人々はアメリカの国旗星条旗を軒並みの家々、商店街や町々の街路や車など、また会社の卓上などに立て、市民生活の中には、日に日に星条旗の数が増え、アメリカ中が星条旗で埋まっている。国旗販売店では星条旗を求める人々が、かつてないほど殺到し、製造元はフル操業で生産しているが、品不足の傾向にあるという。
アメリカの町全体が、星条旗で埋め尽くされているのは、多数の犠牲者を出した深い悲しみを、心から追悼する現れもあるが、また人々があの惨事からのショックで、落ち込んだ気力を、星条旗を揚げることで、奮い立たせているようにも思われてならない。
普段の生活の中で、米国市民と国旗は密接な位置を占めており、この国で教育を受ければ、幼稚園から高校までの各教室には、かならず星条旗がある。毎朝教師が入室すると、児童生徒は国旗に向かって、直立不動の姿勢で、右手を胸に当て、国旗に対して「(訳文)私はアメリカ合衆国・国旗と、その国旗が象徴する、すべての人々の自由と正義を守り、神のもとに統一された共和国に対して、忠誠を誓います」と声を出し唱え、学校生活の一日が始まる。
これは幼稚園から高校まで、アメリカの学校生活の、毎朝の習わしであり、公立、私立にかかわらず連邦政府の教育法にのっとり行われるため、おのずとアメリカ国民には、国旗に対する、忠誠意識が根づいている。
人々がこの惨事の時に、星条旗を揚げ、気分を高揚させるのは、その長年の義務教育の課程で、徹底した国旗に対しての忠誠心を、たたき込まれているからであろう。
この国旗への忠誠心の教育と並行して、中学および高校の義務教育中で、アメリカ市民が果たさなければならない、国民の義務として、徹底した教育がなされるのに、「徴兵の義務」がある。すべての十八歳から二十六歳までの男子は、徴兵登録をなさねばならず、もし登録を怠った者は、二万五千ドルの罰金と五年以下の刑が科せられる。また公務員となる権利の剥奪(はくだつ)と、国民が受ける恩典、例えば年金などの給付金を得る権利も剥奪されるという、厳しい条文がある。
さて、米国政府は、今回の同時テロの首謀者およびそれらをかくまっている国への、強気の報復を表明しているが、報復のための長期的な戦闘の道もありそうな雲行きで、ベトナム戦争のような地上戦も有り得るようで、これが現実となったら、大きな人的犠牲もあろう。
湾岸戦争が勃発(ぼっぱつ)した当時、徴兵該当年齢の長男を持つ者として、「徴兵」の呼び出しがいつ来るか、毎日生きた心地がしなかったが、また再び報復のための「戦争」という、非常事態が再びこの国に来ようとしている。
米国市民にとって、同時多発テロの大きなショックの後に続く「徴兵」の脅威は、このところ平和な日々が続いていただけに、予期せぬ事態でもある。わが家の末の息子も、徴兵該当年齢だけに、決して人ごとではなく、徴兵該当年齢を持つすべての家族にとって、この事態が解決し平和な日が来るまで、不安な日々が続くであろう。
また、これから報復されるであろう相手国が、受ける戦争のつめ痕を思うと、幼いころに目撃した、沖縄戦で受けた無残な焦土の姿を思い出し、人が憎み合う虚(むな)しさを悲しく思う。
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