琉球新報 記事詳細

日 付 2001/12/16  朝・夕刊 朝刊  政治・行政  3  1版 
見出し 日曜評論/児童にやさしい社会/斎藤陽子(USセラミック・サプライ・インク社副社長) 
本 文
日曜評論/児童にやさしい社会/斎藤陽子(USセラミック・サプライ・インク社副社長)


 あと二週間で、今年も終わろうとしている。
 二十世紀は人類にとって、目覚ましい進歩の世紀でもあったが、半面、人類は環境ホルモンや車両から排出する二酸化窒素など、数え上げたらきりが無いほどの、多くの汚染物質をこの地球上に排出することと引き換えに、二十世紀の進歩をかち得たともいえる。
 いま世界では「地球にやさしく」などが叫ばれ、地球の汚染防止と、二十世紀に地球上を人類が汚した数々の問題を、二十一世紀は浄化しなければならないという、大きな課題を抱えた、新たな世紀を迎えている。
 さて、日本の社会では、人々の健康に影響のある、過剰な化学肥料使用の反省から、有機農法などが研究されたり、環境ホルモン汚染や、ダイオキシンの問題など、近年敏感に汚染に対処する傾向にあり、それは一連の波のようなうねりで、いろいろと対策が論じられている。
 環境問題に敏感に対処する方向へと、機運の出てきた日本社会であるが、長年アメリカで生活している者として、気になることがある。それは日本の次世代をになう、児童生徒の身辺の環境が、アメリカの児童生徒の環境に比べて、随分と汚染されているように思えてならない。
 大半の日本の人々は「アメリカは自由の国」で、日本より規制が無く、もっと乱れた環境社会のように、誤解している人もいるが、アメリカは自由の国でありながら、未成年者を取り囲むもろもろの条例規制が、細かく厳しく張り巡らされ、児童生徒への環境整備が、十分になされている国でもある。
 例を挙げれば、アメリカでは考えられない、若年層にまで波及している、援助交際とそれに伴う事件など、日本はもうおしまいかと悲壮な気持ちにさえなる。この未成年者への買春行為の、大人に対するアメリカの刑などは、禁固二十五年にも及ぶ厳しい法規制だ。
 また二十一歳未満の者に、酒類やタバコなどを販売した場合には、アメリカでは重い罰金刑と販売営業の停止処分などを実施し、オトリ捜査まで行って、酒、タバコの販売規制は厳しくしている。このタバコ自動販売機とタバコ広告に関しては、先ごろ世界保健機関(WHO)百九十一カ国の加盟国の大半が、自動販売機禁止の態度を示しているという。
 このような国際的現状で、日本の社会では未成年も自由に買える酒、タバコの自動販売機がはんらんしている光景は、何かがおかしいように思える。先ごろ日本を訪れた際も、相変わらず街を歩けば、児童生徒の目に簡単に入るヒワイなテレクラのたて看板広告などが減少するでもなくある。ハリウッド通りでさえ、これらの広告を見かけることはできない。
 また最近では中学生までもが、携帯電話を学校に持ち込み、「出会い系」などへの接続や、無意味な交信に時間を費やしている。こうした現象は、携帯電話がビジネス社会の機器といった感覚の定着しているアメリカだけに、異様に感じる。
 この児童生徒たちの汚染された社会環境に、父母や教育関係者たちもが、当たり前となってしまい、その汚染の深さに、随分とむとんちゃくになっているようにも思えてならない。
 二十一世紀こそは、他の環境汚染対策同様、父母の会や教師の側が、日本の児童生徒の環境が、汚染の危機にさらされていることを、あらためて認識してほしい。そして児童生徒の目線で、その汚染の深さを再認識し、「地球に優しく、そして児童に優しい社会」の、環境の整備に立ち上がることこそ、二十一世紀の大人たちが果たさねばならない、重要な課題のように思われてならない。


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