琉球新報 記事詳細

日 付 2002/05/30  朝・夕刊 朝刊  特集  16  1版 
見出し 沖縄振興計画県案(要旨)(その1) 
本 文
沖縄振興計画県案(要旨)(その1)


第1章 総説

 1 計画作成の意義
 時代の転換期にあって沖縄の振興発展をどう図っていくのか。本土復帰して30年が経過し、新世紀を迎えた今、幾多の課題を抱えつつも大いなる発展可能性が現実化しつつある中、沖縄振興の新たな展望を切り拓(ひら)いていかなければならない。
 3次にわたる沖縄振興開発計画に基づく総合的な施策の推進と県民の不断の努力で各面にわたる本土との格差は次第に縮小、社会経済は着実に進展してきた。しかし、道路、空港、港湾等の交通基盤の整備をはじめ、なお多くの課題があり、産業振興や県民の新たなニーズへの対応を含め、今後とも積極的に整備を進める必要がある。
 遠隔の離島県ゆえの不利性や米軍施設・区域が集中するなど沖縄の特殊な諸事情もあり、自立への展望を拓(ひら)くには至っていない。所得水準も全国平均の7割程度にとどまっている。失業率も財政依存度も全国に比べ高いまま今日に至っており、これまで以上の積極的な取り組みが求められる。
 こうした要請にこたえたのが「沖縄経済振興21世紀プラン」であり、これに基づく思い切った施策の推進により、情報通信分野の企業立地、航空運賃引き下げによる観光客の大幅な伸びなど着実な成果を上げつつある。サミット首脳会合の成功を契機に各種の国際会議が相次いで開催されるなど、沖縄の優位性に着目した取り組みも実を結びつつある。
 このような動きを加速し、新世紀に輝く沖縄の基礎を築いていくことが重要である。沖縄自らが振興発展のメカニズムを内生化し、自立的かつ持続的な発展軌道に乗るような条件整備を図っていかなければならない。そのためには本土との格差是正を基調とするキャッチアップ型の振興開発だけではなく、沖縄の特性を十分に発揮したフロンティア創造型の振興策へ転換する必要がある。

2 計画の性格

 この計画は沖縄振興特別措置法に基づいて策定する総合的な計画であって、沖縄振興の向かうべき方向と基本施策を明らかにしたものである。

3 計画の期間

 この計画の期間は、平成14年度(2002年度)から平成23年度(2011年度)までの10カ年とする。

 4 計画の目標

 沖縄の特性を積極的にいかしつつ、自立的発展の基礎条件を整備し、豊かな地域社会を形成するとともに、我が国ひいてはアジア・太平洋地域の社会経済及び文化の発展に寄与する特色ある地域として整備を図り、平和で安らぎと活力のある沖縄県を実現することを目標とする。

第2章 振興の基本方向

1基本的課題

 (1)時代潮流
 少子高齢化の進行に伴い、子育ての負担を社会全体で担う動きや、経験豊かな高齢者の社会参加が進むなど、これまでの世代や性別等による役割意識が変わっていく。人と人をつなぐ新たなコミュニティ活動も重要となってくる。
 地球環境の保全と循環型資源利用を推進するための国際的枠組みが強化されつつあるが、豊かな自然に恵まれた島しょ県の沖縄は環境共生型社会のモデルになり得る。
 国際化の進展は国民生活を豊かにする半面、国内産業の空洞化など地域社会に大きな影響を及ぼすことも否定できない。このため産業の国際競争力を高めるとともに、世界各地域との多面的な交流を促進して相互理解を深めていく必要がある。
 高度情報化社会を展望した時、沖縄の前に新たな発展可能性が広がる。情報化は、時間や距離の壁を取り払い、不利と考えられてきた条件を転換する大きな力となる。
 一方、地方分権が本格化する中、地方公共団体はいかに独創性を発揮するか、生き残りをかけた自己改革が求められる。

 (2)地域特性
 沖縄の際立った地域特性は有利性と不利性の両面を持つ。これまでは本土との格差是正をめざし振興開発が進められたが、これからは沖縄の優位性を最大限に発揮するとともに不利性の克服を図ることが重要となる。
 沖縄は貴重な動植物が生息・生育する緑豊かな島しょ県で、白い砂浜が広がり、青い空と相まって世界有数の海岸景観を誇る。一方で特殊土壌・特殊病害虫の存在等による農業分野への影響に加え、島しょ性がもたらす環境容量の小ささなど、県民生活や産業面に影響を及ぼしている。
 東京をはじめとする大都市からの遠隔性は物流面の不利性につながり、産業振興の制約となっている。東京と同距離内にソウル、上海、香港等の主要都市が位置する地理的条件は、交通通信ネットワーク構築等により、大いなる優位性へと転ずる可能性を孕(はら)んでいる。
 沖縄の歴史及び文化的特性は独特のものがある。琉球王国として形成された琉球文化に、戦後米国からの影響等も加わり、国際色豊かな文化、生活様式をはぐくんできた。先の大戦でか烈な戦禍を被り、戦後も27年にわたり米軍統治下に置かれた歴史の歩みの中で、平和への強い思い入れと国際性豊かでホスピタリティに富む県民性を培ってきた。我が国の高度成長時代に施政権外に置かれ、社会資本整備が遅れるとともに、技術や資本の蓄積などが十分に進まず、ぜい弱な経済構造となっている。
 沖縄の人口増加率は高く、若年人口の割合も高い。100歳以上の高齢者の比率も高い長寿県であることも特徴である。海外雄飛の覇気を持って移民し、世界にネットを築いている約30万人の世界のウチナーンチュ(沖縄人)の存在も沖縄の貴重な財産。また、世界約150カ国から5千人近い研修生が沖縄で学び、沖縄を体験して大きな絆(きずな)を結んできた。
 一方、沖縄には我が国における米軍専用施設・区域の約75%が集中している現状がある。狭小な県土の中での高密度の米軍施設・区域の存在は、土地利用上大きな制約となっている上、水域及び空域の利用について制限があるなど、県民生活をはじめ沖縄の振興にさまざまな影響を及ぼしている。

 (3)基本的課題
 沖縄が変革の時代にふさわしい新たな振興発展を図るためには、沖縄振興特別措置法に基づく諸制度を積極的に活用し、施策を効果的に推進しなければならない。このため以下の基本的課題解決に取り組む必要がある。
 第1に、明日への活力を生み出し、自立を促進する産業の振興を図らなければならない。経済の持続的発展を可能ならしめる成長の原動力を地域経済の中に組み込んでいく必要がある。産学官連携による研究、技術開発や人材育成への取り組みを強化し、新事業の創出や既存産業の高度化を図ることが求められる。
 第2に、国際的な交流拠点形成に向け、人、物、情報等の結節機能の育成・強化を図る必要がある。アジア・太平洋地域の交流拠点形成に向け、国際水準の空港、港湾や情報通信基盤等の整備を進めるとともに、交流を担う国際的な人材の育成・確保を図ることが不可欠である。
 第3に、人々が自然と共生する社会システムを構築しなければならない。大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式を見直し、環境への負荷を軽減することが求められる。近年の情報通信技術の飛躍的進展に的確に対応し、新たな産業の創出や社会生活の利便性向上を通し、県民がその恩恵を享受できるようにすることが必要だ。県民が健康長寿を維持するとともに、少子高齢化が進んでも活力があり安心して暮らせる社会を構築する必要がある。
 第4に、人材育成に果たす学校教育の役割は極めて大きく、子供たちの能力と個性が発揮できる環境整備を進める必要がある。情報通信関連産業等の多くの分野で人材の不足が指摘されており、今後とも幅広い人材の育成が重要である。知的資産の蓄積も重要で、学術研究の総合的振興を図る必要がある。
 第5に、社会資本整備は、時代の要請に応じ、より効率的、効果的に進めなければならない。人や物の移動・輸送の円滑化・効率化の観点から、総合的な交通体系の改善・整備が重要となる。水・エネルギーは安定的供給を図る必要がある。社会資本も目的志向型の戦略的・重点的整備という観点が求められる。
 第6に、県土の均衡ある発展が引き続き大きな課題である。離島・過疎地域は定住条件の一層の改善を図り、自立的地域づくりを進める必要がある。都市部は交通渋滞緩和、バリアフリー推進など、快適で活力ある都市空間整備が求められる。
 第7に、沖縄の過重な基地負担の軽減や振興を図る観点から、今後とも在沖米軍の移転を含む米軍施設・区域の整理・縮小に積極的に取り組む必要がある。そのためには沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告を踏まえ、さらなる整理・縮小を計画的、段階的に進めることが重要だ。駐留軍用地跡地の有効利用には円滑・迅速な対応が求められており、広域的視点に立った、県土構造の再編も視野に入れた幅広い検討が求められる。米軍施設・区域内の環境保全対策の充実については、米国政府と引き続き協議する必要がある。戦後処理問題についても引き続き解決に向けて取り組む必要がある。

2基本的姿勢

 官と民、国と地方との役割の変化に伴い、沖縄振興策推進に当たっても県民と行政が連携し、英知を結集することがこれまで以上に求められる。

 (1)参画と責任
 沖縄振興に向けては、参画と責任を基調に、国、県、市町村及び民間の役割分担を明確にした上で、一体となって取り組む必要がある。国は、沖縄の特殊事情等に配慮するとともに、沖縄の進むべき方向性や担うべき役割を見極めて適切に対応することが重要である。自立型経済構築のためには何よりも産業界や県民を中心とする主体的かつ責任ある取り組みが不可欠で、国と県はその環境整備を積極的に推進する必要がある。地域づくりは自主性や主体性の発揮が成功のかぎだ。地域住民や民間企業、NPO等の地域づくりへの積極的参加を促し、行政とのパートナーシップを築き、施策実施の効果を高める必要がある。

 (2)選択と集中
 これからの沖縄振興は中長期的視野に立った施策、事業の選択と資源の集中によって効果を発揮する。特に産業経済の分野は、企業や団体が時代潮流や地域特性を踏まえた沖縄の可能性を見極めながら方針を選択し、人材や資金など限られた資源を集中する姿勢が求められる。行政も施策・事業の費用対効果を踏まえた政策評価の観点が重要となる。厳しい経済環境下、効率と衡平の調和を図りつつ、地域の将来を見据えて優先すべき課題を選択し、集中的に取り組む必要がある。

 (3)連携と交流
 沖縄の優位性をさらに高めるため、さまざまな分野で多様な連携と交流を重層的に進める。特に沖縄の外との連携と交流が重要で、南の海洋連携軸構想をはじめとする他府県との幅広い連携と交流に加え、アジア・太平洋地域との連携と交流を深める必要がある。産業面では、観光・リゾート産業を中心に、多くの産業の連携と交流が重要となる。産学官の連携と交流を深め、地域資源を活用して新たな産業創出を促進し、地域産業の活性化を図ることも重要である。地域間の新たな機能分担、相互補完により、人材と資源を有効に活用した個性あふれる地域づくりが求められる。

3基本方向

 (1)民間主導の自立型経済の構築
 発展可能性の高い産業領域を戦略的に振興し、他産業分野との連携を通じて波及効果を高め、経済全体の活性化を図る。
 観光・リゾート産業、情報通信関連産業に加え、地域特性を生かした農林水産業、特別自由貿易地域制度等を活用した加工交易型産業、国際物流関連産業、沖縄の地域特性や資源を積極的に活用した健康バイオ産業、環境関連産業等が戦略的に振興すべき重点産業として期待できる。
 観光・リゾート産業では、国際的海洋性リゾート地の形成、体験滞在型観光の推進など通年滞在型の質の高い観光・リゾート地の形成を図る。
 情報通信関連産業では、産業の集積や情報通信ハブの形成を実現するための基盤整備を図るとともに、産学官が連携して高度な専門知識と技術を身につけた人材の育成を進め、新たな産業としての可能性を追求する。あわせて産業の情報化を促進する。
 農林水産業は地域特性を生かしたおきなわブランドの確立と生産供給体制の強化を図るとともに、総合的な流通・販売・加工対策、亜熱帯・島しょ性に適合した農林水産業基盤の整備等を進め、持続的発展を図る。
 特別自由貿易地域や金融業務特別地区等で企業立地等を促進する。健康バイオ産業や環境関連産業等について、新事業展開を促進するための支援策を講じ、チャレンジ精神を持った起業家の創造的な活動が十分に展開できる環境を整備する。
 製造業、建設業をはじめとする地域産業については、市場競争力の強化を基本に、情報化への対応、流通体制強化等を図り、活力ある産業として振興を図る。

 (2)アジア・太平洋地域の発展に寄与する地域の形成
 アジア・太平洋地域の交流拠点形成に向けた空港、港湾等の諸基盤や高次の都市機能を整備するとともに、航空・航路ネットワークの拡充など各種条件整備を進める。平和交流、技術協力等の国際貢献活動を促進する。大規模自然災害に対応した情報通信分野のバックアップ機能、国際医療救急支援等の体制整備を図る。コンベンション機能充実はもとより、世界水準の学術研究、芸術文化の拠点づくりを進める。

 (3)世界的水準の知的クラスターの形成―大学院大学を中心として―
 沖縄における科学技術の振興及びわが国の科学技術の進歩の一翼を担い、世界に開かれた中核的研究機関として、わが国の大学のモデルとなるような「国際性」と「柔軟性」を基本とした新たな発想を持つ世界最高水準の自然科学系大学院大学等を核に、他大学、公的研究機関、民間企業・研究所の集積と一体となった知的クラスター形成に取り組む。科学技術創造立国を担う高度な技術と専門知識を持った人材の養成・確保に努める。

 (4)安らぎと潤いのある生活空間の創造と健康福祉社会の実現
 自然環境の保全・創造に努め、環境共生型社会の構築に向け取り組む。上下水道、公園、緑地、住宅の整備等、快適で潤いのある生活環境を支える基盤の整備を図る。
 県民が情報通信技術を最大限に享受できる高度情報通信ネットワーク社会の実現に向け、情報通信基盤の整備を進め、情報格差解消に努め、電子自治体の構築を進める。
 だれもが安全で安心して暮らせる健康福祉社会の実現に向け、子どもたちが健やかに生まれ育つ環境づくりや高齢者・障害者がいきいきと暮らせるための社会づくりを進める。健康志向の高まり癒(いや)しの求めにこたえ、県民の長寿の維持や健康増進はもとより、国民的な健康保養の場の形成にも資する保健医療基盤の充実、技術の高度化、人材の育成に努める。

 (5)持続的発展のための人づくりと基盤づくり
 沖縄の持続的発展には人材の育成・確保が重要だ。人間性豊かな創造性に富む児童生徒の育成を目指し、学校教育の一層の充実と家庭や地域の教育力向上を図っていく。
 産業振興の観点から産業界をリードする高度な人材が求められており、そのための戦略的人材育成を進める。
 県民生活の安定向上と産業経済の持続的発展を図るため各種社会資本の整備が重要であり、亜熱帯・島しょ地域特性を踏まえた技術や整備手法の確立に努める。
 交通通信体系は、国際交流拠点にふさわしい規模・機能を備えた空港や港湾の整備を図るとともに、モノレールと連携した質の高い公共交通サービスの実現や道路網の一層の整備を進める。高速・大容量・低コストを実現する多様な情報通信基盤の整備を促進する。
 県民生活の向上や観光客の増加等に伴い、今後とも水需要の増加が見込まれることから、多様な水資源の開発と保全を図り、水の安定的確保に努める。エネルギーの安定供給を図るとともに、環境に配慮した電源開発を促進する。
 さらに、既存社会資本の適切な維持管理、更新、有効活用に努めるとともに、バリアフリーの推進、情報化社会への対応など新たなニーズに対応した整備を図る。基盤整備に当たってはソフト施策との連携を図るとともに住民やNPOとの連携、公共事業のコスト縮減等に努める。

 (6)県土の均衡ある発展と基地問題への対応
 県内の各地域が特色を生かした地域づくりを行う。広域的視点に立ち、地域間連携による新たな活力の創出や産業の高度化などを促進する。これにより、地域の個性が互いに磨かれ、創意工夫を競い合う主体的な地域づくりが進展し、県土全体が発展する。
 沖縄に存在する駐留軍用地の面積規模は、沖縄島の約19%を占めており、その返還跡地は、沖縄振興を図る上で貴重な空間である。SACO最終報告等で返還が合意された施設・区域は、計画的、段階的な返還及び跡地利用計画を策定することにより、良好な生活環境の確保、健全な都市形成、新たな産業の振興、交通体系の整備、自然環境の保全・再生等、21世紀のモデルとなるよう整備を進める。
 特に、普天間飛行場跡地については、中南部都市圏の枢要な位置にあることから、その役割・機能を明確にした跡地利用計画を策定し、今後の地域開発のモデルとなるよう取り組んでいく。
 また、沖縄における不発弾処理や旧軍飛行場用地など戦後処理等の諸問題に引き続き取り組む。

4県土利用の基本方向

 (1)県土の適正な利用
 都市については、施設整備を推進しつつ、既成市街地は再開発や沖縄都市モノレール開通など交通体系の再編等による土地利用の高度化や環境の整備を図り、低未利用地の有効利用を促進する。
 農山漁村は、地域特性を踏まえた良好な生活環境を整備するとともに、多様なニーズに対応した農林水産業の展開等により、就業機会を確保し、活力ある地域社会を構築する。農山漁村景観の維持・形成を図り、都市との交流を促進するための環境整備を図る。
 高い価値を有する原生的な自然の地域や野生生物の重要な生息・生育地、優れた自然風景地など自然環境の保全を旨として維持すべき地域は、適正に保全する。適正な管理の下で、環境保全型自然体験活動等の自然とのふれあいの場としての利用を図る。水源かん養等を図るために必要な森林を保全、育成する。

 (2)海洋の保全・利用
 沖縄の海洋環境等は、貴重な国民の財産であることから、陸域と一体となった海域の保全を図るとともに、海洋資源や海洋空間の多面的、総合的な利活用を促進する。
 沿岸域は、細心の注意を払いつつ、国際的海洋性リゾート地の形成や交通・都市機能などの整備充実を図る。自然の持つ浄化能力や多様性を維持するため、さんご礁、藻場、干潟及びマングローブ林等の保全・再生・創出に努める。海洋深層水をはじめとする海洋資源や海底資源と海洋エネルギーの開発利用を促進するとともに、海洋技術の研究開発を進める。
 高潮や津波、波浪等による自然災害や海岸侵食から県民の生命や財産を守るため、景観や生態系など自然環境に配慮した海岸保全に努める。

 (3)駐留軍用地跡地の有効利用
 米軍施設・区域は、大規模かつ高密度に形成され、しかも沖縄の振興開発を図る上で重要な位置に所在し、県民の良好な生活環境の確保、都市の形成、体系的な道路網の整備等、社会経済の面で大きな影響を及ぼし、県土利用上の制約となっている。このため、都市的利用が想定される駐留軍用地跡地は、都市機能の計画的な再配置・高度化及び諸産業基盤の整備を進める。農林業的利用が想定される地域は、農林業基盤の整備を計画的に推進し、公共施設整備や集落整備を含めた総合的な整備を促進する。その他の駐留軍用地跡地については、自然環境の保全を図るとともに、その有効利用を進める。

5人工及び社会経済の見通し

 総人口は緩やかな増加基調で推移し、平成12年の132万人から平成23年には139万人程度になる。年齢構成では、15歳未満の年少人口の割合の低下と65歳以上人口の割合の上昇が進み、少子高齢化が進行する。労働力人口は、女性の社会進出等により漸増し、平成12年の63万人から平成23年には約70万人になる。
 就業者総数は、平成12年の58万人から平成23年には約67万人になる。産業別の就業構造は、平成23年におおよそ第1次産業では平成12年の7%から5%へ、第2次産業では19%から18%へ、第3次産業では74%から77%へと変化し、1次、2次産業の割合が低下する一方、3次産業の割合が上昇する。
 県内総生産は、平成12年度の3兆4千億円から平成23年度にはおおよそ4兆5千億円(平成12年度価格)となる。産業別構成は、平成23年度でおおよそ第1次産業は平成12年度の2%を維持するが、第2次産業では製造業の割合がやや上昇するものの、建設業の割合の低下により平成12年度の17%から16%へやや低下し、第3次産業は観光・リゾート産業等の伸びにより81%から82%へ若干上昇する。
 一人当たり県民所得は、平成12年度の218万円から平成23年度には270万円(平成12年度価格)を超え、全国平均との格差は縮小し、完全失業率も低下していくことが期待される。

第3章 振興施策の展開

1自立経済の構築に向けた産業の振興

 観光・リゾート産業、情報通信関連産業、農林水産業、特別自由貿易地域制度等を活用した加工交易型産業、国際物流関連産業、地域資源等を生かした健康食品産業、環境関連産業等を県経済をけん引する重点産業として戦略的な振興策を展開する。地域経済を支える製造業、建設業等の既存産業については、市場ニーズや環境の変化に対応した取り組みを促進する。

 (1) 質の高い観光・リゾート地の形成
 国際的な海洋性リゾート地の形成や国民の総合的な健康保養の場の形成、エコツーリズム、グリーンツーリズム等の体験・滞在型観光の推進、さらにはコンベンション拠点の形成など、多様なニーズに対応した通年・滞在型の質の高い観光・リゾート地の形成を図る。ショッピングの魅力の向上を図るため沖縄型特定免税店の空港外展開と併せて国際ショッピングモール構想の推進を図る。部瀬名地域及び中城湾港泡瀬地区においては、国際性や海洋性を備えたリゾート拠点の形成を図る。沖縄の多様な食材を生かし、健康の保持増進に資する食の提供や健康食品の開発、普及等の促進を図る。沖縄の豊かな自然を生かし、エコツーリズムを促進する。コンベンション受け入れ態勢の充実を図るため、国際会議等の専門業者の育成、ボランティア組織の充実強化、国際会議等にも適応できる専門的な通訳の育成、接遇研修の実施等人材育成を強化する。観光情報システムの充実強化を図るとともに、沖縄の豊かな自然景観や、独特の風土、伝統文化、歴史等をデジタルアーカイブスとして整備し、沖縄情報の発信機能を強化する。沖縄観光をさらに魅力的なものにするため、夜間や、雨天時及び季節を問わず楽しめるショービジネスをはじめとした多様なエンターテイメントづくりを促進する。

 (2) 情報通信関連産業の集積
 情報サービス、コンテンツ制作、ソフトウエア開発を中心に、情報通信関連産業の振興を図る。戦略的な企業立地環境の整備を促進する。人材育成については高度な専門知識と技術を有する人材を早期・大量に育成し、国内外から優秀な人材を招致し、情報通信関連産業を支える研究開発及び技術の集積を図る。

 (3) 亜熱帯性気候等の地域特性を生かした農林水産業の振興
 優位性の発揮や生産性向上が期待される重点的に推進する品目を定め、地域特性や地域の諸条件に適合した選択的かつ集中的な振興施策を推進し、豊かな太陽エネルギー等の環境ではぐくまれたおきなわブランドを確立するとともに、環境と調和した持続型農林水産業への取組を強化する。

 (4) 創造性に満ちた新規企業及び新規事業の創出
 健康食品、情報通信関連、環境関連など地域特性や優位性を生かした産業等の新規事業の創出を戦略的に促進する。特別自由貿易地域制度、産業高度化地域制度及び金融業務特別地区制度等を効果的に活用することにより、国内外からの企業立地を一層促進する。金融業や金融関連業務の集積に向け、情報通信基盤を整備するとともに、企業ニーズを踏まえ、レンタルオフィス等、企業立地環境の整備を促進する。CM、テレビ番組、映画などのロケーション撮影に関する各種サービスを提供するフィルムオフィスの設置を促進し、ロケーション撮影の誘致拡大を図り、映像製作に関するCG等コンテンツ関連産業の事業創出を促進する。

 (5) 地域を支える産業の活性化
 内外市場における競争力の強化、経営基盤の強化、経営の革新、情報化への対応、流通体制の強化等、市場ニーズや環境の変化に的確に対応した取り組みを促進する。工芸産業については、ゆとりと豊かさを求める消費者のニーズにこたえる地域産業として育成を図る。原材料の確保、後継者の育成、技術者の養成等に努めるとともに、インターネットの活用による工芸産業の活性化を図る。県民や観光客等が工芸品に気軽に触れ合い、購入できる場として、ファッション、食文化等を取り込んだ工芸振興ゾーンの整備を促進する。可燃性天然ガス・石油等の地下資源は、産業振興に寄与する方向で調査及び開発を促進する。

 (6) 販路拡大と物流対策
 大消費地等国内外の市場における県産品の販路拡大を図るため、生産振興策や物流対策と一体となった積極的な市場展開を促進し、マーケティング機能や販路拡大のための体制を強化する。おきなわブランドの確立に努めるとともに、物流コストの低減化に向け、県外への製品出荷等を一元的に管理する効率的な物流システムの構築を図る。

 (7) 中小企業の成長発展
 県内外における競争の激化、消費者ニーズの多様化、情報化社会の急激な進展などの変化に適切に対応し、中小企業の成長発展を図るため、新規事業の創出に関する施策に加え、経営基盤の強化と体質の改善、経営の革新等を促進する。経営革新等を行う中小企業等の情報化、物流効率化、販路開拓等に対する支援を充実強化する。

 (8) 産業振興を支援する金融機能の充実
 民間主導の産業振興を図るため、円滑な資金供給等金融の円滑化を推進する。沖縄振興開発金融公庫は、沖縄振興特別措置法に基づく地域指定制度等に対応する資金制度を整備し、企業等の積極的な活用を促進する。新規産業、新規事業の創出を図るため、民間金融機関等と連携してベンチャー企業等への出資や助言等の支援を充実し、その育成発展を図る。

2雇用の安定と職業能力の開発

 産業振興と一体となった雇用機会の創出・拡大を図るとともに、特に厳しい雇用状況にある若年者の雇用促進のための施策を積極的に実施する。産業振興に必要な専門的な能力を有する人材の育成に重点を置いた職業能力の開発を行う。

 (1) 雇用機会の創出・拡大と求職者支援
 地域雇用開発促進法の特例を踏まえ、地域の特性に応じた雇用機会の創出のための施策と産業動向等の情報提供や職業講習会の実施等の求職者支援の施策とを一体的に実施する。発展が期待される重点産業において、雇用の創出と人材育成を一体的に行う沖縄特別雇用開発推進事業等の施策を推進するとともに、助成金制度等の各種制度を活用し、雇用機会の創出・拡大に努める。

 (2) 若年労働者の雇用促進
 新規学卒者を中心とする若年労働者については、若年者の雇用開発を支援する制度等を活用した雇用機会の創出・拡大を図り、職業指導の充実、就職情報システムの整備及び県外求人の積極的な開拓等広域的な就職促進を図る。

 (3) 職業能力の開発
 技術革新や経済のグローバル化の進展による経済・産業構造の変化、就業意識や就業形態の多様化に伴う労働移動に的確に対応するため、高度で専門的な職業能力開発を一層推進する。労働者が自発的に行う職業能力開発を促進するとともに、労働者個人のキャリア・コンサルティングを強化しキャリア形成を支援する。

 (4) 働きやすい環境づくり
 職場、家庭や地域で、労働者の個性が発揮できる豊かで働きやすい社会の実現のため、労働時間の短縮を促進し、中小企業勤労者福祉サービスセンター、中小企業退職金共済制度及び勤労者財産形成促進制度などの普及促進に努める。育児・介護休業法の周知やファミリー・サポート・センターの設置を促進し、仕事と家庭の両立を支援し、男女雇用機会均等法等の周知等、職場における男女の均等な取り扱いの確保に努める。

 (5) 駐留軍等労働者の雇用対策の推進
 駐留軍等労働者の雇用の安定を図るため、返還合意後の職業訓練等に十分な期間を確保する。離職を余儀なくされる駐留軍等労働者については、再就職に向けた離職前職業訓練の一層の充実を図る。

3科学技術の振興と国際交流・協力の推進

 「知の世紀」といわれる21世紀の社会経済の発展に向け、付加価値の高い産業を創出し、活力ある自立型経済を構築し、県民生活の向上に資するため、科学技術の振興に積極的に取り組む。経済、学術、文化及び平和等さまざまな分野で、アジア・太平洋地域との交流・協力を推進し、わが国のみならずアジア・太平洋地域の社会経済及び文化の発展に寄与する地域の形成を目指す。

 (1) 大学院大学等による科学技術の振興と学術研究・交流拠点の形成
 世界最高水準の自然科学系の大学院大学等を核とした大学、公的研究機関、民間の研究所などの教育研究機関の整備充実に努め、科学技術の集積を図る。沖縄における学術研究・交流拠点の形成を目指し、琉球大学をはじめとする県内の大学、国及び沖縄県の研究機関等の整備や研究開発機能の充実強化を図り、これらの研究機関を軸としたIT、バイオ、環境、食品工業等の分野における研究開発を積極的に促進する。さんご礁保全やマングローブ研究、亜熱帯農業技術等、沖縄の亜熱帯特性を活用した研究開発を総合的に推進する。大学における研究成果の移転を行うTLO(技術移転機関)の創設を支援する。

 (2) 国際交流・協力の推進
 国際化に対応し得る人材を育成・確保するとともに、地域における国際化に向けた取り組みや世界各地とのネットワークの確立を図る。留学生派遣制度や同時通訳者養成制度を有効に活用し、英語を中心とした外国語が堪能な人材を育成するとともに人材の活用を図る。国際交流・協力に対する啓発に努めるとともに、積極的に県民の英語力の向上を図る。平和に関する国際会議等の開催誘致に努め、国連機関を含む国際機関等の誘致の可能性も検討し、沖縄平和賞事業を実施するなど平和の大切さを沖縄から世界に発信する。海外事務所や民間経済団体等との連携による経済交流や福建省との交流促進、ワールドウチナーンチュ・ビジネス・アソシエーション(WUB)との連携強化、世界のウチナーンチュ大会の開催等により世界各地とのネットワークの形成を図る。

 (3) 国際交流・協力拠点の形成を目指した基盤整備
 那覇空港については、沖合への空港施設の展開等について検討を行い、必要な整備を図るとともに、旧国内線ターミナル地区の利用について検討を行い、必要な整備を図る。また、貨物ターミナル等狭あい化が進みつつある地区について、所要の施設の整備拡充を図る。那覇港の国際航路ネットワークの拡充を図るため、国際クルーズ等に対応した旅客船バース等を整備するとともに、利便性を高めるため、那覇、泊、新港、浦添の4ふ頭地区の機能再編を促進する。






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