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日 付 2003/09/05  朝・夕刊 朝刊  政治・行政  2  1版 
見出し <夢をつなぐ・南米・ハワイのウチナー社会>1/強い影響力誇る県系人/沖縄の心世代間で育む/ブラジル(上) 
本 文
<夢をつなぐ・南米・ハワイのウチナー社会>1/強い影響力誇る県系人/沖縄の心世代間で育む/ブラジル(上)


 「先人がブラジル社会の発展に果たした貢献は大きい。自分も沖縄県系人の誇りを胸に、ブラジルの発展に貢献したい」
 八月下旬にサンパウロ市で開かれた県人移民九十五周年記念式典に今年一月に発足したルーラ労働党政権で大統領府直属の広報長官を務めるルイス具志堅氏(五三)=本部町出身二世=が出席した。
 ブラジル県系人は、連邦下院議員(国会議員)や州議員、市会議員などこれまでブラジル政界に数多くの人材を出しているが、閣僚の誕生は初めて。具志堅氏は、ルーラ大統領が最も信頼を寄せる人物の一人として知られ、一時は大統領の有力候補とみなされていたほど。ブラジル社会における県系人の影響力を象徴する存在といえる。
 「本来はブラジリア(首都)から出てはいけない人だが、県人会の要請に応えてくれた。こうした集会に出るのも異例中の異例だ」ブラジル県人会の宮城調智会長(七三)=国頭村出身一世=はこう言って目を細めた。
 具志堅氏の目覚ましい活躍がある一方で、連邦下院で一時は四人の県系人が議席を確保していたが、昨年の選挙までに全員が落選。サンパウロ州議員もゼロとなった。背景には、移民一世と、言葉や文化、習慣のほとんどが現地化している二世以降の世代間ギャップも少なからずあるようだ。
 「現地教育を受けた二世、三世はブラジル的な気質が強い」と指摘するのは、一九八七年から九〇年まで県人会長を務めた山城勇評議会委員長(七四)=糸満市出身一世。「私の会長時代までは何とか候補者調整ができたが、今は乱立気味で共倒れ状態だ」と分析する。
 裏を返せば、かつては苦難を強いられた県系人の社会的地位が高まり、一致団結して解決すべき共通の課題が少なくなっている点も挙げられる。
 結婚の傾向にもブラジル化が顕著だ。二世では日系人以外と結婚する割合は3%だが、三世は45%、四世だと65%に跳ね上がる。五世の時代を迎え、混血率はより高まる見通しだ。
 実際に日本語を話せない二世、三世世代が中心になる中、他府県の県人会は厳しい状況にあるという。しかし沖縄県系人は政界進出こそ転換期にあるが、県人会活動は「ウチナーンチュの心」を継承する世代間のつながりが原動力となっている。
 九十五周年式典であいさつしたブラジル都道府県人連合会の中沢宏一会長は「ブラジル日系社会で最後まで残るのが沖縄県人会だ」と称賛した。
 県人会幹部の多くは「三線や踊り、太鼓など沖縄の伝統芸能の若い世代への継承が、県人会活動に大きく役立っている」(宮城会長)と口をそろえた。
   ◇   ◇
 県人移民九十五周年を迎えたブラジルとアルゼンチン。一九〇〇年に沖縄から最初の移民が渡った米ハワイでは、第一回世界のウチナーンチュ会議が開かれた。海外に根付き、世代を超えてウチナーンチュの心を育(はぐく)む県系人社会の模様を報告する。
(政経部・外間聡)



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