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日 付 2003/10/29  朝・夕刊 朝刊  文化  15  1版 
見出し <ウチナーンチュ国際会議に参加>上/石川浩之/県系人/高まる出自への関心/「日系人」と対等な集団へ 
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<ウチナーンチュ国際会議に参加>上/石川浩之/県系人/高まる出自への関心/「日系人」と対等な集団へ


 八月二十九日から九月二日にかけて、第一回世界のウチナーンチュ国際会議がハワイで開催された。沖縄県内で一九九〇年の第一回以来、三回にわたって世界のウチナーンチュ大会が開催されて、世界各地に広がっている沖縄出身者が集結し交流を深めたが、その海外開催という位置づけももった国際会議であった。
 一九九七年に発足した世界ウチナーンチュビジネス連合会(WUB)が、五年に一度の開催となっている世界のウチナーンチュ大会の間隔が広すぎるということから、その中間に国際会議を海外で開催することにした。
 五日間の日程は、二十九日の歓迎レセプション、三十日の国際パレード、三十、三十一日の沖縄フェスティバルといったイベントに引き続いて、一、二日の国際会議となっていた。このうちの沖縄フェスティバルは、ハワイ沖縄連合会の主催であり今回で二十一回目となる恒例のイベントが、会議日程に組み込まれた。
 今回のハワイでの国際会議について、沖縄フェスティバルと会議そのものを取り上げ、それぞれいくつかの点から考えてみたい。

●移民版市町村祭り

 沖縄フェスティバルは、ハワイで沖縄文化をアピールする絶好の機会であり、野外劇場の舞台と舞台を囲むようにして点在するテントで構成され、県内で夏に各地で行われている行政や商工会による市町村祭りのハワイ沖縄移民版といえる。舞台では、ハワイにある沖縄芸能団体をはじめとする出演者による沖縄芸能が披露される。また、初日のフィナーレには、ハワイ最大の盆踊り大会があって、沖縄のエイサーや日本各地の盆踊りが行われる。
 沖縄フェスティバルの舞台は、ハワイ沖縄連合会の運営・進行で進められていくが、舞台を囲むようにして点在するテントは、ハワイにおよそ五十存在する沖縄系クラブによって、それぞれが運営されていた。これらのクラブの大多数は、出身地に基づく「村人会」である。
 ハワイ沖縄連合会は、これらのクラブの集合体であるという側面もあり、それぞれのクラブが活発な活動を展開することによって連合会が活性化され、ハワイのウチナーンチュの結束が強まっていくのである。連合会の拠点としてハワイ沖縄センターがあり、常時ハワイの沖縄移民の歴史や沖縄文化についての展示もある。
 このようなクラブの活動が活発であることの背景には、ハワイにおけるウチナーンチュの位置づけが関連している。ハワイの日系移民の歴史において、日系人の中で差別を受けてきたウチナーンチュが、レストラン経営やハワイの政財界での活躍といった実績から自己の誇りを取り戻し、結束を固めていった結果ともいえるのではないだろうか。
 テントは、沖縄料理やハワイ料理の提供、沖縄からの県産品や農作物の販売、文化テントなどがある。文化テントには、琉装での写真撮影、工芸品販売、ハワイの沖縄系レストランの歴史展示など複数のコーナーが設けられていた。

●沖縄系図研究会

 移民の出自について考える活動を行っているハワイ沖縄系図研究会は、文化テントの中で二つのコーナーを持っていた。一つは姓を漢字によって毛筆で表記するコーナーであり、もう一つは文献や独自に作成したデータベースを用いて、姓から出身地を検索するコーナーである。いずれのコーナーにも期間中、多数のウチナーンチュが列をなして順番を待つ光景が見られた。
 ハワイに限らず、沖縄移民には四世、五世が増えてきている。南米などでは若干事情が異なるかもしれないが、少なくともハワイの場合、三世にもなると日本語やウチナーグチがわからなくなり、自分の名前を漢字で表記することは出来ない。自分がウチナーンチュであり、祖先が沖縄出身であることはわかっていても、沖縄のどの地域の出身であるかまではわからなくなってしまっている。
 おそらく以前は生活に支障もなく、出自の詳細が不明のままでも放置しておいたのではないかと思われるが、ハワイでウチナーンチュ意識が生成され、ウチナーンチュであることを積極的にアピールする傾向になってきたために、出自への関心が高まってきているのだと考えられる。
 沖縄フェスティバルそのものの開催と継続にも、クラブの活動の状況にも、出自への関心の高まりにも、現在のハワイにおけるウチナーンチュがハワイの中で独自の立場を確立しつつあることの一面があらわれている。日系人の一部ではなく、日系人と対等な民族集団として、ハワイでのウチナーンチュの存在感が強くなってきているのであろう。

 いしかわ・ひろゆき 1964年東京生まれの沖縄3世。明治大非常勤講師。専門は社会人類学・民俗学。大宜味村塩屋湾周辺で16年間社会人類学的な総合調査を継続して行っている。



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